東京高等裁判所 昭和27年(う)4223号 判決
被告人 村田熊蔵
〔抄 録〕
第一点及び第二点について。
記録を調査するに起訴状記載の第一の公訴事実の要旨は「被告人は判示農業共済組合の組合長であつたが、昭和二十五年度の水害による水稲の災害補償の保険金を埼玉県農業共済組合連合会に請求するに当り、実際上被害を受けていない組合員村田作次郎外三十三名についても右水害に因る被害があつたものの如く装い、保険金名下に右連合会より金員を騙取しようと企て組合職員に命じて村田作次郎外三十三名名義の損害評価野帳を作成偽造させ、これを真正に作成されたもののように装い、右連合会に呈示して行使し、更に右村田作次郎等の分を含む虚偽内容の水稲損害評価書二通及び保険金概算請求書及び保険金追加請求書各一通を作成偽造させ、右各書類を前記連合会に提出行使し因て右連合会職員を欺罔して保険金名下に二十七万二千五百円を騙取した」と言うのであつて、即ち、(イ)村田作次郎外三十三名名義の損害評価野帳の偽造、同行使、(ロ)虚偽内容の損害評価書一通、保険金概算払請求書、保険金追加請求書各一通の偽造、同行使、(ハ)詐欺の各訴因を含んでいる。これに対し原審は、「被告人は前記のように保険金名下に前記連合会より金員を騙取しようと企て、村田作次郎外三十三名の虚偽の損害額を加算した水稲損害評価書並びに保険金概算払請求書及保険金追加請求書を作成の上前示連合会に提出して同連合会を欺罔し保険金名下に前示金員を騙取し、なお右虚偽記載部分の損害評価野帳の提出を求められる場合に備えて、組合職員をして前示村田外三十三名名義の損害通知票及び損害評価野帳を作成させて偽造した」ものと認め、これを手段結果の関係にあるものとして処断したのである。即ち、原判決は(イ)村田作次郎外三十三名名義の損害通知票及び損害評価野帳の偽造と(ロ)詐欺の事実のみを認定し、前記各訴因のうち損害通知票及び損害評価野帳の行使はこれを認めず、虚偽内容の損害評価書及び保際金概算払請求書保険金追加請求書の作成行使はいずれも罪とならないものと判示しているのである。
故に原判決の判示するところは起訴状記載の各訴因を有罪と認めるか否か並びに手段結果の態様の認定につき趣を異にするものがあるが、両者の間に基本的事実関係の同一性を失わないことは明瞭であり、又有罪と認めなかつた訴因については、これを有罪と認めない旨を理由中に判示しているのであるから、所論のように、審判の請求を受けた事件について判決をせず、審判の請求を受けない事件について判決したと言う違法があると言うことはできない。所論の検察官の釈明(野帳はこれを行使しない旨の釈明)は未だこれを以て適法な訴因の撤回とは認められないが、原判決は右訴因についても判断を示していることは叙上のとおりであり、又起訴状記載の第一の各訴因は全部手段結果の関係にあるものとして起訴されたものと認められるのであるから、判決理由中に、その有罪を認めない訴因につきその旨を判示した以上更に主文においてその旨の言渡をすることを要しないことはいうまでもない。要するに原判決には所論のような違法はないから論旨はすべて理由がない。